「診療所の窓辺から」小笠原望著
在宅医療のドキュメント映画「四万十~命の仕舞い~」の映画鑑賞記
四季を通じて四万十の美しい風景が随所に織り込まれる。自然の中でアユやホタルの命を育む生き物と重ね合わせて、人の命の最期の仕舞い方を示唆する営みこそ最幸の人生と訴えているかのようだった。
高知特産のユズ同様、あゆにもホタルにも独特な匂いが漂う。
きっと土佐の人々は幼少時からのあの臭いに懐かしさと季節感を感じさせることであろう。
四万十名産の柑橘系の香りも地元の高齢者を精神的に支えていることであろう。
たびたび登場した見覚えのある赤鉄橋は私自身も四万十に3年ほど前に訪れた。
確か6月の雨の日(2015.6.6)であった。
悠々とゆったり流れる四万十を見ながら自然の営みに敬虔な気持ちとなった。
在宅医療の苦は自分を鍛える機会であり心身ともにタフな負担がかかるが、それを良しとする。というこの映画の主役である小笠原望医師。私と同じ年だけに一層親しみが湧く。
小笠原さんが声をかける優しさがビンビン伝わって来る。たとえ反応がなくても語り続ける姿勢が安心をもたらすのであろう。「住み慣れた自宅には麻薬がある」という危なっかしい表現が痛みには無縁ということを思い知らせる。
映画終了後、劇場トークライブが溝渕監督と在宅医療の医師とで行われた。
在宅では四季を肌で感じられる楽しさがある。
病院勤務時代には病気を見て病人を観ずが当たり前になっていたことが、今、その常識に疑問を抱くようになった。
支える医療があることも知ってほしい。
そしてこんな心ある在宅医との出会いがあれば仕舞い方も安心安楽であるに違いない。