消臭目的におむつ交換をしている90歳代の男性の認知症の利用者のエピソード。
おむつ交換時にレモンスプレーを使用していた。消臭する場合も事前に利用者の鼻先にレモンの精油を垂らしたムニエットを差し出していた。
しかし残念ながら嗅覚が衰えて匂わないせいか全く反応を示すこともなかったので、あることを思いついた。
レモンそのものを見せてしかも舌の先にレモンの皮の薄切りにしたものをなめてもらってはどうかと試みた。
いわゆる感覚の複合刺激で何とか顔の表情だけでもレモンの反応が出ないかと期待した。
しばらく様子を見たが私の期待を裏切って無反応な沈黙の状態が続いた。
芳香浴もこの老人にとってはただの空気にすぎないのかと少々ガッカリしていたその時、まわりの静けさを破るように「レモン!!!」と突然の大きな叫び声に一声発したのであった。
久しびりの発声に周りの人たちもびっくりしたようで、顔の表情が見る見るうちに柔らかく和やかになってきたことがわかった。
表情の筋肉でさえも反応を示したのだと思った。
そして実物の果物を見せ食べて見せ、そのうえで嗅覚の機能を再生したのかと思ったが、そうでなないとも思った。
遠い昔のレモンとの思い出が夢か幻か一瞬タイムスリップして思わず発生に結び付いたと思わざるをえない。
そのことがいつかエビデンスがとれればと願っている。
しかし臨床現場ではエビデンスに先行して、これからもチャンスがあれば試し続けたい。