男はつらいよ、40作品目の介護がテーマのストーリー
「人生の最後を選ぶのはその人の権利じゃないでしょうか?
患者の命を助けて寿命を延ばすのも医者の仕事だけど、同時にどう死を迎えるかという患者の心の領域に立ち入ることも医学のうちだと思うのですが・・・・」
以上のセリフを「男はつらいよ」シリーズ40作品目(昭和63年12月公開)のマドンナ役である医師に扮する三田佳子さんがやるせなさそうに言うシーンがある。
山田洋二監督は既に福祉の時代に現在の看取りの状況を見据え、医師に語らせている。
冒頭に信州の小諸の駅で寅さんは老婆に会うシーンから医療介護の問題をテーマにする。
シリーズでは初めてのテーマだけに目が釘付けになる。
この作品では、いつもの印刷屋の社長ことタコとけんかする場面が気になる。
すでに渥美清さんは癌の宣告を受けた頃と一致する。誰にも知られず渥美さんの体はこの頃から年々歳々癌に侵されていく。そして元気にない晩年の寅さんがふと脳裏をよぎる。
主役がいつの間にか満男と後藤久美子になっていて寅さんは見守り役になっていく。
唯一、この作品の早稲田大学の講堂での教授役の三國一朗さんと学生諸君を相手にちぐはぐなワット君の会話が、何ともユーモア寅さんの真骨頂を発揮するのだが、後はさみしい場面が続く。
先週はその小諸に近い上田に出張してきた。信州信濃の蕎麦がいい。わたしゃあなたの傍(蕎麦)がいいと啖呵を切った寅さんが懐かしい。
小諸でも渥美さんは蕎麦を好んで食べたそうだ。私もそれにあやかって蕎麦三昧の三日間であった。
ちょうど、前年サラダ記念日の俵万智さんの単価が爆発的に売れた年であったので、随所に啖呵ならぬ短歌が詠まれたのも印象的な作品であった。
「家で死にたい」と最後まで寅さんと叫び続けた老婆の姿が、今でも目に浮かぶ。
在宅死を実践させるに、私のケアマネの仕事の力量を問われる。
寅さんの存在であり続けたい。