「サイレントブレス」という造語で医療の現場にメスを入れたサスペンスタッチの医療小説。
現役医師でありながら作家デビュー果たした南杏子の待望の第二作は長編小説となった。
今回は訪問診療の終末期医療でなく、中小病院の勤務する内科医と患者およびそれを取り巻く人間模様を抉り出す。
前作も今回も大学病院から出向もしくは大学に籍を置けなくなったエリートコースから外れたシチュエーションは同じだ。暗に大学病院中心の医療体制に疑問反発を抱いていることがわかる。
第7章からなるコンテンツは、最初と最後はともに静かに始まり静かに幕を閉じる構成となっている。
主人公の勤務医真野千晶の「誠実に患者を癒し続ける医師であり続けたい」という結びの言葉がモンペ(モンスターペイシェント)を生み出すことの歯止めとなればいい。
この小説では桜の香りが主人公の味覚の郷愁を覚えるという背景の中で紹介されている。
前作はアロマテラピーという言葉そのものが出ていたが、故郷の認知症のおかあさんが昔作ってくれた
食欲を出すため幼少時の千晶にいつも作りおきして呉れた香りの思い出が語られた。
この小説の中では製薬会社の営業マン(MRという職業)が登場してこない。
私自身が大学卒業後、最初に就職したのが製薬会社の営業マン(当時はプロパーと呼称されていた)いつか南先生の作品にも製薬会社の営業マンが登場することを期待したい。
それとも現在は、私の頃と違ってドクターと営業マンとの関係が希薄になり、濃密な関係が消え去ってしまったのであろうか?